軍艦島の老朽化コンクリート建物の劣化調査

研究プロジェクト概要

本プロジェクトは、世界遺産の一部である軍艦島(長崎県長崎市端島)[a]における老朽化建物の劣化調査を目的としている。一般社団法人建築研究振興協会[b]は、2023年に劣化調査を実施したが、これは2015年以来8年ぶりとなる軍艦島全建物を対象とした調査であった。しかし、老朽化が著しいいくつかの建物は内部に人が立ち入って調査を行うことができない。特に30号棟は、日本初のRC造コンクリート建築であり、建設から100年以上が経過している。老朽化が進み、壁や床の崩落が激しいため、人の立ち入りが禁止されている。

本プロジェクトでは、アームを備えたクローラロボットを用い、人の立ち入りが禁止されている30号棟内部の劣化調査を行うことを提案した。調査では、アーム先端付近に設置した360度カメラを用いて建物の天井、壁、柱、梁を撮影し、点検員が映像を確認して目視点検を実施した。カメラ映像を活用した遠隔操縦により内部調査を進め、アームを活用して床に散乱していた木材や生活用品などの障害物を脇に寄せ、移動しやすい経路を確保した。また、要所でアームを高く上げて360度カメラで劣化状況を撮影した。非常時の補修用テザーおよび有線通信のLANケーブルを引きながら、建物内部の死角エリアを調査した。

2023年および2024年には、クローラロボットを用いた内部点検を実施し、2階、3階、5階の廊下部分の損傷状況を明らかにした。また、3階調査時には中庭から1階の柱を撮影し、一部の柱の劣化状況も確認した。これらの成果はROBOMECH2024および2025で報告され、高く評価されて1件の機械学会の受賞につながった[c]。さらに、2025年度日本建築学会大会(9月開催)[d]において、2023年以降に人とロボットで実施した劣化調査の全体成果が報告される予定である。

関連リンク

発表論文

  1. “作業アームを有するクローラロボットを利用した軍艦島の建物の劣化調査”
    大野 和則、岡田 佳都、小島 匠太郎、奈良 貴明、横田 将輝、江川 諒、中島 海、片寄 俊介、有木 克良、兼松 学
    ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集, 1P1-L05, (2024)
    DOI: https://doi.org/10.1299/jsmermd.2024.1p1-l05
    ベストプレゼンテーション表彰受賞
  2. “作業アームを有するクローラロボットを利用した軍艦島の建物の 劣化調査 -第 2 報 : 曲がり角のある通路を含む建物深部探査の実現-”
    小島匠太郎、奈良貴明、岡田佳都、江川諒、藤田翔平、鈴木裕太、澤村理生、福澤快、有木克良、兼松学、大野和則
    ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集, 2P1-A04, (2025)
    DOI: http://dx.doi.org/10.1299/jsmermd.2024.1P1-L05
  3. “2023年調査に基づく端島の建物の劣化による構造性能低減に関する研究 – その4:ドローン等を利用した立入り困難建物での劣化度の評価 – “
    有木 克良、兼松 学、大野 和則、宮内 博之、田中 吉史
    2025年度日本建築学会大会, (2025) (In press)
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